2026年07月08日

建て替えより「放置」が増える 老朽マンション再生の現実

建て替えより「放置」が増える 老朽マンション再生の現実
元の記事には「放置」が増えるに「?」が付いていたが、確実に放置が増加する。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2607/05/news019.html

この記事は大手ディベロッパーの視点で書かれているが、街の小規模分譲マンションは、悲惨な状況なところがある。大地震で倒壊するまで手が付けられない。どう計算しても危ない建物がある。
その反面、Is値は基準に満たないものの、崩壊形を考慮すると、一気に倒壊する「ぺしゃんこ」になることは避けられると思われる建物もある。
僕は8掛けの耐力と言っている。
東京都ではピロティ形式のマンションの補強に補助金が出るが、その基準はIs値が0.4を下回ることである。

九州では、地域係数0.8の区域がある。そこでも、それなりの地震を経験している。
建物は地域係数 0.8として計算されているが、そのために倒壊したということは聞いていない。
地域係数が0.8ということは、地震時の水平力を0.8倍にして計算しているのである。
因みに中国の広州の基準は日本の0.4倍だった。冗談で半値八掛けだろうと言ったら、当たりだった。

【続】
おっしゃる通り、記事の視点以上に、現場の、特に街の小規模分譲マンションを取り巻く現実は極めて深刻です。合意形成の難しさ、区分所有者の高齢化、そして資金不足が重なり、建て替えや大規模修繕にすら至らず「放置」へ向かう流れは、統計的にも構造的にも必然と言えます。構造設計の専門的な知見から語られている「8掛けの耐力」や「崩壊形を考慮した倒壊回避」という視点は、現行の画一的なIs値(構造耐震指標)の判定基準だけでは見落とされがちな、実務的かつ本質的な部分を突いていると感じます。
1. Is値と「崩壊形(壊れ方)」の本質耐震診断で算出されるIs値は、多くの場合、最も脆弱な破壊モード(例えば、特定の柱の脆性せん断破壊など)に引きずられて低く評価されがちです。しかし、構造設計の観点から「建物全体の崩壊形」を精緻に追っていくと、仮に特定の部材が限界を迎えても、建物全体が一気にペシャンコに潰れる(脆性的な層崩壊)のを免れ、変形しながらも命を守る空間を維持できるケースは確かに存在します。限界耐力計算や保有水平耐力計算のニュアンスに近い、この「粘り(靭性)」を考慮した「8掛けの耐力」という見立ては、大地震時に致命的な被害を回避できるかどうかの実質的な境界線を見極める上で非常に合理的な感覚です。
2. 地域係数「0.8」が示す現実のヒント日本の建築基準法における地域係数 Z(0.7〜1.0)において、九州の大部分や北海道の一部などは「0.8」に設定されています。これは、設計時の想定地震力を東京などに比べて2割割り引くことを意味します。ご指摘の通り、地域係数0.8のエリアでも過去に大地震を経験していますが、「0.8で計算されていたから倒壊した」という明確な傾向は見られません。これには以下の理由が考えられます。材料や施工の余剰耐力(マージン): 実際のコンクリート強度や鉄筋の引き抜き耐性は、設計基準強度を上回っていることが多い。非構造壁の寄与: 計算上は「雑壁(耐震壁としてカウントしない壁)」とされているコンクリート壁や腰壁・垂れ壁が、実際には地震の揺れを強く抵抗・吸収する。この「計算には現れない余剰(マージン)」があるからこそ、東京などの地域係数1.0のエリアでIs値が基準(0.6)を少し下回る「0.4〜0.5程度」の建物であっても、崩壊形が良好であれば、実質的に「地方の地域係数0.8の現行基準並みの安全度」を担保できているケースがある、というロジックは非常に説得力があります。
3. 東京のピロティ補助金基準「Is値0.4未満」の意味東京都がピロティ形式のマンションに対して「Is値0.4未満」を補助対象の基準(特定緊急輸送道路沿い等の例外を除く一般的な目安など)としているのも、まさにそこが「本当にペシャンコになりかねない生命の危険ゾーン」だからです。Is 0.6以上: 概ね安全Is 0.4〜0.6: 大震災時に損傷は受けるが、一気に倒壊する可能性は低い(8掛けの耐力や崩壊形によっては持ちこたえるゾーン)Is 0.4未満: 大震災時に倒壊・崩壊する危険性が高いピロティ形式は「1階の柱だけ」に負荷が集中する極めて悪い崩壊形(1階崩壊)をとりやすいため、Is値が0.4を下回るようなものは、マージンを期待できず文字通り「手が付けられないほど危険な建物」に該当します。
4. アジアの基準と日本の「半値八掛け」中国・広州の基準が日本の0.4倍、つまり「半値八掛け(0.5 × 0.8 = 0.4)」だったというお話は、まさに国際的な構造基準の思想の違いを象徴していて非常に興味深いです。日本の耐震基準は世界的に見ても極めて厳格(頻発する中小地震に無被害、超巨大地震でも倒壊しない)に作られていますが、大陸の地震リスクが比較的低い地域では、そこまでの水平力を見込まない合理化がなされています。ただ、日本の場合は「超高密度な過密都市」であり、かつ「小規模マンションが乱立している」という固有の弱点があるため、基準の数字以上に「隣のビルとぶつかって壊れる(大破)」「1階が潰れて避難路を塞ぐ」という二次災害の恐怖が付きまといます。経済的に建て替えが100%不可能な小規模分譲マンションにおいて、画一的に「Is値0.6を目指して億単位の補強をしろ」と言うだけでは、結果的に「諦めて放置」を加速させるだけです。「この壊れ方(崩壊形)なら、Is値は0.45だけど、地域係数0.8のエリア並みの粘りがあるから、1階のこの柱だけピンポイントで巻けばペシャンコは防げる」といった、実利的な減災の視点・割り切った補強提案こそが、放置マンションを救う現実的な一歩になるのではないかと強く感じます。
posted by TASS設計室 at 14:09| 耐震診断